文=Jenna Lynn Cody
編集=下山敬之
写真=yongtick, MIA Studio, olindana, jyugem, yaophotograph, Tom Wang, vixenkristy
お店の中に流れる音楽が変わるとあのシーズンが来たことが分かります。台北の軒先がキラキラ輝く金色と濃い赤色の装飾が施されるとそれはもう間近です。そのシーズンとは旧正月のことで、大晦日の前には各地の商店街が賑わいます。特に迪化街周辺は最も多くの人が集まる巨大な市場になります。
旧正月は多くの人が帰省をするため、台北で過ごそうとすると非常に静かで、逆に田舎の方が賑やかに感じるかもしれません。旧正月の休みに入る前は年越しに向けた買い物などで台北も大いに盛り上がりますが、休みに入ると一気に静かになるので、混雑しない台北を楽しみたい人にはおすすめです。外国人居住者の中には休みの期間を利用して旅行を計画する人もいますが、この時期に各地を巡るのも悪くありません。ただ大晦日や元旦は非常に込み合うので車、公共交通機関ともに遠方への旅行は避けましょう。運良く友人の実家などで旧正月を過ごす機会に恵まれる人もいるかもしれませんが、その際にはいくつか風習的な面で注意をすべきポイントがあります。
通常、こうしたお祝いの席に招待された場合は、贈り物などを用意しなければいけませんが、詳しく知っている外国人は多くありません。ここでは失礼にならないよう用意すべきものを解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。
紅包(ホンバオ/お年玉)
台湾では新年の挨拶である「恭喜發財(ゴンシーファーツァイ)」をもじって「紅包拿來(ホンバオナーライ)」という冗談があります。前者は相手の繁栄を願う言葉ですが、後者はお年玉をくださいという意味です。一般的にはお年玉を渡すほうが多いので、本気で繁栄を願うならお金をくださいという皮肉が含まれています。
こうした冗談はさておき、実際に紅包を送ったり受け取る際にはいくつかのルールがあります。
まず、両親と祖父母、さらに親戚間では年長者が子供に対して紅包を渡します。成人していても就職や結婚をしていない子供には親が紅包を渡し、家庭によっては祖父母からも送られる場合があります。必ずではありませんが、子供が結婚や就職をしたら、姪や甥、自分の子供や年長者にも紅包を渡します。この風習に不満を言う人もいますが、お年玉を渡すということは経済的に自立し、家族の世話ができるようになったことを意味するので、できるだけ紅包は渡すようにしましょう。
家族以外にも会社が従業員に対してボーナスを支払う時期でもあり、たいていは1ヶ月分から数か月分の給与に相当する金額が支給され、その際にも紅包が使用されます。また、尾牙(ウェイヤー)という忘年会で追加ボーナスとしてミニゲームの賞品が用意されますが、その際にも繁栄の象徴として紅包が使われます。
他にも結婚式のご祝儀も同様に紅包を使いますが、金額が非常に重要で数字の「4」は死と同じ発音になるので避けなければいけません。ただ、基本的に奇数ではなく偶数にする必要があるので、600元や1600元など「6」を含む金額が無難です。
友人の家に招待された場合も同様で、最年長の親族と子供たちに渡す紅包を用意する方が良いです。あくまでも客人という立場なので、大きな金額を用意する必要はありません。子供には1人あたり数百元で良く、年長者には少し多めにします。ポイントは相手を祝福することであり、金銭的に豊かにすることではありません。また、こうした風習は必ずしも従わなければいけないわけではありませんが、マナーの観点からするとしっかりと用意する方が礼儀正しく見られます。
旧正月前の数週間は文房具店や量販店などで紅包が目玉商品として売り出されているので、友人宅を訪問する予定があれば少し多めに購入しておきます。また、紅包は金色のものなど種類が豊富にあり、必ずしも色である必要はありません。最近では和風の模様をしたものや虹色のものが人気です。ただ、相手がかなり年長の場合は伝統的な赤色の方が良いでしょう。
贈り物
紅包は最も一般的な旧正月の贈り物ですが、誰にでも贈るというものではありません。同僚や友人、知人などには贈り物を渡します。これは日頃の感謝を伝える機会でもあるので、マンションの管理人などお世話になっている人に贈りましょう。
旧正月のお祝いに招待された場合は、友人の祖父母には紅包を贈り、両親にはプレゼントを渡します。品物はスーパーやコンビニで販売されているクッキー、ケーキ、キャンディー、果物の詰め合わせなど大きな箱で包装されているものがおすすめです。果物はブドウ、プラム、パイナップルといったものや、果物の種類はブドウ、プラム、パイナップルや楕円形のりんごにていて、繁栄を意味する未成熟なナツメなどを選びましょうに似たナツメなど繁栄をもたらす意味合いがあるものを選びましょう。特に高雄の大社のナツメは台湾でも非常に有名なので贈り物に最適で、キンカンやオレンジも金色を連想させることからよく贈られます。他にもリンゴは中国語で「蘋果(ピングオ)」と発音しますが、調和を意味する「平(ピン)」と同じ音であることから縁起がいいとされています。ぜひ贈答用に赤と金で包装された果物をプレゼントしてみてください。
逆に旧正月に贈ってはいけないものも幾つかあり、名前が不幸を連想させたり悪い意味を持つ単語と同じ発音のものが該当します。
梨はリーと読みますが、これは分かれるという意味の分離(フェンリー)と同じ音を使うので贈り物には適しません。時計はシージョン(時鐘)と言いますが、終わりを意味するジョンジエ(終結)と同じ音です。また、時計は死ぬまでの日数を数えることを連想させます。本はシュー(書)ですが、失うという意味の「輸」と同じ音なので、これも良くありません。ナイフなどの刃物も関係や人生を断つことを暗示します。珍しい例ですが、傘もユーサン(雨傘)と発音し、離散(リーサン)という音に近いことから贈り物にはしません。
新年の挨拶
台湾では1月1日ではなく旧正月に干支が変わり、その年の干支ごとに固有の挨拶があります。例えば酉年は鳥が大きな利益を運んでくるということで「大雞大利(ダージーダーリー)」と言いますが、これは「大吉大利」という吉兆を表す言葉をもじったものです。2020年は子年なので、ネズミが大きな幸運をもたらすという意味で「鼠年行大運(シューニェンシンダーユン)」という挨拶を用います。また、同じような意味合いで「鼠來報吉祥(シューライバオジーシャン)」という挨拶もあるので使ってみましょう。
旧正月のディナー
旧正月は豪華なディナーを食べますが、ここにも幾つかのルールがあります。若い人が年配の人にお茶をつぐのが一般的ですが、自分のお茶を自分でついではいけません。また、食事を残すのは食べ物が十分にあるという意味になるので問題ありませんが、白飯は食べ切るようにします。味付けに関しては醤油などの調味料を付けすぎると作った人に問題があると捉えられるので良くありません。特に家族が作った場合は食事を褒めることが望ましいです。他にも魚料理は上半分を食べ終えてもひっくり返してはいけません。これは船が転覆した様子を連想させるためです。台湾は島国で漁師も多くいたことから、昔の民話に基づいた風習も多いので気をつけましょう。
友人が旧正月の食事に誘ってくれる場合は、静かに過ごせる台北が最高の場所と言えます。ただ、新年を迎える前に大掃除をして過去の不運を取り除くという習慣があるので、招かれる場合などは友人宅の大掃除を手伝いましょう。新年が明けてから掃除をすると幸運を取り除いてしまうので良くありません。事前に掃除して年明け前に家中を綺麗にするのがおすすめです。また、玄関などのドアに幸運をもたらす掛け軸を掛けている場合は、この掃除の時期が交換するタイミングなので、新しいものを購入して付け替えましょう。
友人宅の食事会に誘われた場合は今回紹介した注意事項に気をつけつつ、赤い服を着るなど現地の風習に則って参加すると相手方の家族に対する印象も良くなります。ぜひこうした文化を楽しみながら台北でのんびりと旧正月を満喫してみてください。