【文 Rick Charette、 Ellie Chueh】
【編集 下山敬之】
【写真 陽明春天、EMBERS、小小樹食、好嶼、Plants、Jeremy Kuahn】
にぎやかな台北の街頭では隠れたフード革命が広まっています。これは台北をより持続可能で、より環境に配慮した都市へ変えていこうという動きで、シンプルに美味しい料理を提供するだけでなく、持続可能な食事を実践していくことで環境への思いやりを示そうというムーブメントです。
グリーン・ダイニングやサステナブル・ダイニング、あるいはエコフレンドリー・ダイニングと呼ばれる取り組みは、飲食業界において環境や社会的責任に焦点を当てた原則です。食材の仕入れ段階から食品廃棄の最小化を図り、洗剤や包装資材の使用といった食品の生産と提供における各段階において、環境に配慮することを目指しています。
ミシュランが選出するグリーンスターは、優れた料理だけでなく持続可能な活動においても最先端を行くレストランであることを意味しており、台北においてもグリーンレストランのトレンドを広める重要な役割を担っています。
台北のレストランが持続可能な食事の実践を取り組むにつれ、美味しい料理と環境への責任には関連性があることが明らかになりました。これは一種の大きな変革であり、レストランは味覚を満足させるだけではなく、地球に対して良い影響を与えるという目標を持つに至ったのです。
これらのグリーンレストランで提供される一品、一品の料理が持続可能性を物語っており、より環境に配慮し、より責任ある未来を受け入れようとする台北の姿とシンクロしています。
台北フードシーンの発展に伴ったグリーン・ダイニングのトレンドは、より慎重で環境に配慮した方法で台北の多様なグルメを楽しみたいという人々の心情の変化を表しています。ここでは実際にグリーン・ダイニングを実践しているレストランを紹介するので、どのような取り組みをしているかチェックしてみてください。
陽明春天
陽明春天は2021年に台湾で初めてミシュランのグリーンスターを獲得した2軒のレストランのうちの1つであり、以来3年連続でこの栄誉を守り続けています。このお店では人間と自然の繋がりについて深く探求しており、「食の芸術、茶の芸術、持続可能の芸術、文化の芸術、創造の芸術」を融合させた食事体験を提供しています。陳健宏氏と長きに渡り信頼を置いているエグゼクティブシェフの薛永鴻氏が共同で設立した陽明春天では、主にグリーンダイニングの芸術に重きを置いています。
陳氏は個人と環境の間にある本質的な繋がりを祝うことができる空間をイメージし、それを育んできました。そのため、このお店には加工食品を使用しないこと、食材の持つ特性を活かすこと、食材を使って環境現象を表現すること、健康的な食生活を推進することという4つの基本原則を掲げています。
陳氏によれば、美味しい料理を作る秘訣は自然で新鮮な食材を使うこと。そのため固定のメニューはなく、「御品綻放山伏茸」のような料理は、その時に手に入る食材を使用することで高いクオリティと想像を超えたサプライズを作り出しているのだそうです。陽明春天というユニークな食の楽園の根底には、こうした一貫した料理哲学があります。提供する料理は創造的な手法を使ったフュージョン料理で、いかなる食材も優れたベジタリアン料理として生まれ変わります。食材の特性や元々の姿がどのようなものであるかに関わらず、彼らの目標はお客様に最高のベジタリアン料理を提供することです。
陳健宏氏と薛永鴻氏のこうしたこだわりは、美味しく、環境にも優しい健康的な食事を提供するという彼らの心意気を表しています。料理の芸術性と持続可能な食事の実践というユニークな組み合わせを育む陽明春天は、環境に配慮した食事を求める人たちにとって道標のような存在なのです。
EMBERS
食材だけでなく、内装も台湾の自然環境に配慮したEMBERSでは、2022年以来、毎年ミシュラングリーンスターを獲得しています。一見シンプルに見える内装ですが、台湾の自然の美しさを引き立てるためのこだわりが見られ、この島への深いリスペクトが感じられます。
バーカウンターの上にはスギの木を使って作られた鳥の巣の装飾があります。これは先住民の狩猟小屋に対する敬意と台湾の自然美を表現していて、食材の大半も山岳地帯や森、先住民の集落から調達するなど一般的な西洋料理のスタイルから大きくかけ離れたレストランです。ビンロウや漬魚、粟、ナツメなど地元の食材全てがこのお店のメニューの主役となっています。
オーナー兼ツェフの郭庭瑋氏は各季節の新鮮な食材を使用するため、定期的に9品のコース料理の品目を変えています。「米皮(米粉を使った麺)・タケノコ」、「ヒョウタン・ヘチマ・アサリ」、「豆・カカオ」などを使った料理はいずれもオススメです。EMBERSというお店は地元の食材にこだわり、季節の変化に合わせた料理を提供するなど、魅力的な台湾の食文化を誰もが気軽に楽しめる方法で紹介しています。単なる食事をする場所に留まらず、国内外から訪れた人たちに台湾の食を伝える語り部のような役割を担っているのです。
小小樹食
小小樹食はミシュラングリーンスターとビブグルマンを両方受賞した台湾唯一のレストランで、2022年以来その栄誉を保ち続けています。お店のこだわりは台湾産の食材を90%以上使うこと、そして食材の新鮮さを重視し、フードロスと過剰在庫を避けることです。季節の野菜を使った炙りサラダ、台湾原生のキノコ類を数多く使ったトリュフとマッシュルームのリゾット、締めに最適な季節のデザートが看板メニューです。
このお店では、東洋と西洋の調理法を組み合わせた独自のスタイルでベジタリアン料理を提供しているほか、四川料理を学んだ徐兆麟シェフのメニューには、ピリ辛の豆腐餃子などスパイシーなラインナップが並んでいます。こうした革新的な調理法は、彼らが推進する週2回のフレキシタリズム(たまに肉を食べる柔軟な菜食主義)とも合致しています。創設者の劉千瑞氏の信条は、日常生活に不便や違和感を感じさせることなく持続可能な食事を実践することであり、フレキシタリアンは正に最適なアプローチと言えます。
こうした柔軟なコンセプトは実践がしやすい上に、健康面における効果もあります。より多くの人たちが無理なく新しい食生活を試すことができるだけでなく、最終的にはグリーン・ダイニングの推進にもつながるのです。
好嶼
好嶼は2023年に初めてミシュラングリーンスターを獲得した新しいレストランです。メニューは山、海、川、牧場と4つのテーマに分かれ、季節の変化に合わせて提供する料理も変わります。環境に優しい食材を幅広く使用し、調理法には炭火焼きを採用しています。オーナー兼シェフの李易晏氏は、故郷に対する愛情を料理で表現しています。その細かな解説は食事体験を豊かにしているほか、レストランの環境保護に対する姿勢を強調しています。
内装も季節の遷移に合わせて力強く変化させることで、料理を通じてこの土地のストーリーを伝えることを目的としています。例えば台湾のサツマイモを使った自家製のパン、新鮮な川魚を蒸して作った前菜、雲林産のガチョウ、大溪産の甘エビ、馬祖産のカキなど台湾各地の新鮮な天然の食材がテーブルに並びます。
好嶼の環境に対する取り組みはお皿の上だけに留まらず、自然環境や自然のリズムを融合させた没入型の食事空間にも現れています。季節感や持続可能な食材、調理方法を重視することで、食事と環境保護がいかに密接に関わっているかを示し、さらに絶品の料理を通じて台湾の豊かなストーリーを提供しています。
Plants
Plantsの食事のコンセプトは植物性、グルテンフリー、食材を余すことなく丸ごと食べるホールフードを中心に展開しており、地元産のオーガニック食材を使用することを基本としています。地元の農作物を購入することで小規模農家を支援しているほか、環境に配慮した食事に関する継続的な教育を積極的に推進しています。こうしたこだわりは熟練の調理技術だけでなく、持続可能な食事の実践にも現れており、使用される食材も加工されていないものが優先的に選ばれています。
メニューにはパワーサラダ、シェアプレート、サラダラップ、ご飯、麺、えんどう豆など豆類を主とした料理、美味しく環境に優しいデザートなどがあります。中でも人気のパパイヤ・パーティー・ボウルには、なめらかなパパイヤとバナナのスムージー、季節のフルーツ、ケトジェニックな穀物、メープルチアシードプディングにチョコレートソースが添えられています。
ユニークなビーツのタルタル・シェアリング・トリートは、豆乳を作る過程で残るおからで作られたパンを使用したデザートです。ボリュームのあるフジマメのサラダには主食としてひよこ豆をペーストにしたフムス、ひまわりの種とゴマをペースト状にしたタヒニ、その他自家製の料理が一つになっています。
台北のグリーン・ダイニング革命
台北は多くの情熱と資源を投入し、世界でトップクラスのスマートシティ、そして持続可能な都市を目指して積極的な活動を行っているほか、多くの組織と協力して民間単位でのグリーン・ライフを推進しています。こうしたグリーン・ダイニング革命の中で、レストランは食事を楽しむ場であると同時に、どのようにして地球に対して責任を持つかということを示しています。
私たちが消費者として行う消費行動の一つ一つが環境に影響を与え、持続可能な未来に向けて段階的に進めるか否かを決定しています。今回紹介した革新的なレストランは、いずれも環境に配慮した食事が楽しめる場所ですが、これらは台北で広まっている革命の一部でしかありません。