清朝末に劉銘伝が行った台北鉄道の建設は、北門から南港、さらに東へと進められました。時代の移り変わりや都市の発展に伴い、様々な変遷を経た台北鉄道は、常に台北とともにあり、百年の間、繁栄と衰退の道を歩んできました。
百年の軌跡と変遷
建設から百年余りたった現在、台北鉄道は電化や地下化にともない廃止されましたが、古い物語、文化財が数え切れないほどあり、多くの鉄道ファンを今でもひきつけています。本号では、『台湾旧鉄道散歩地図』の著者でもあり、鉄道雑誌『鉄道情報』総編集長の古庭維に台北の鉄道の歴史と知られざる鉄道遺跡を案内してもらいましょう。
日本統治時代、台北城内(現在の台北駅の南側)の鉄道運輸は清朝にすでに建設が進められていた鉄道に沿って、南北に向かう縦貫鉄道として発展しました。南北へ延びる縦貫線が完成し、台北で初めて「空間革命」が起こりました。南北を往来する交通時間が短縮されただけでなく、台北市の鉄道網がさらに密になりました。淡水線や新店線、三張犁線、新北投線などの支線が台北の交通の要となりました。
古庭維によると、当時の鉄道は物資運輸が主な役割で、縦貫線は木材、石炭、塩、砂糖といった物資を運ぶのに使われました。淡水線はもともと材料の運搬線として建設されましたが、後に通勤用鉄道へと用途を変えました。新店線は数少ない官設鉄道と同じレール幅の私鉄の一つで、石炭、木材、コンクリートを運びました。三張犁線は主に軍用車の修理と軍需工場の移設に利用されました。戦後、鉄道は徐々に人々の主要な交通手段の一つとなっていきました。今日の淡水線、新店線、新北投線などのMRTでは、速く便利に行き来ができるようになりました。しかし、これらかつての鉄道に重ねられた路線には、歴史の足跡が残されているのです。
現存する鉄道の秘境
羅斯福路3段316号と汀洲路の交差点に三角屋根の家があります。これはかつて新店線の水源地駅そばにあった台湾鉄道旧宿舎で、宿舎のそばの空き地は水源地駅前広場でした。この歴史を残そうと、地域の住民たちが特別に記念碑を立て、かつてこの地を鉄道が走ったことを懐かしんでいます。そのほか、現在のMRT新北投駅付近の高架道路の橋の下には今でも黒と黄色の縞模様のポールがあるのが見えます。柵のない踏み切り跡で、これも旧淡水線の歴史の証の一つです。MRT奇岩駅の南方にある磺港溪(河川)にかかる素朴な橋台は、当時、ここで列車を待っていた旅人の気持ちを想像させます。
市民大道と林森北路の交差点には白い二階建ての建物があります。ここには当時、縦貫線の華山駅がありました。1937年に建てられた華山駅はもともとは「樺山駅」と呼ばれていました。初代台湾総督の樺山資紀を記念してつけられたものです。ここにはかつて台北市で最大の鉄道貨物駅があり、駅内の側線は13本にものぼりました。しかし、貨物輸送専用だったので、列車によく乗る古くからの台北っ子でもこの駅を知っている人は多くありません。華山駅の近くには良好な状態で保存されている古いホームがあります。八徳路方面へ歩き、華山1914文化創意產業園區(華山1914文化クリエイティブパーク)の近くまでいくと、鉄道が地下化されたあとに唯一、地上を走っていた鉄道を見ることができます。台北でも知る人ぞ知る鉄道の秘境です。
都会の中の「鉄道の病院」
信義区は高層ビルが建ち並ぶ一等地ですが、このエリアには約80年の歴史があり、台湾でもっとも完全な形で保存されている珍しい鉄道遺跡、台北機廠(車両基地)があります。1935年に完成した台北機廠の工場スペースは面積17ヘクタールに及びました。2012年に運用停止されるまで、台湾全国の車両の修理、組み立てを行う重要な基地でした。
達人の古庭維のガイドに沿って、台北機廠の一番重要な中心工房、駅に入って最初の修車区である「組み立て工場」を見てみましょう。市の文化財に指定された組み立て工場は全長168メートル。屋根は鉄骨トラス構造で梁も柱もなく、通気用の開口窓と大面積の日本式鉄窓を取り入れているため、工場内部は風通しや採光がよくなっています。この建築技術は当時、世界でも屈指のものでした。
古庭維によると、第二次世界大戦時、アメリカ軍が台湾を爆撃し、爆弾が組み立て工場の東側に落ちた際にもほとんど損傷がなく、建築の質の高さは明らかです。組み立て工場の近くには、部品製造をする鍛冶工場があります。工場内の上部には配管がぎっしりと走っていて、向かい側の原動室からのもので、ボイラーから送られてきた蒸気はここまで運ばれ工場全体の動力の提供元となっていました。中でも1889年の日付が刻まれた一台の蒸気ハンマーは劉銘伝がイギリスから買ったものと言われており、台湾で最も古い機械です。
市の文化財に指定されたものとして、他には工場内の社員風呂があります。日本の銭湯文化をもとに設計されたアーチ型窓の風呂場は、あまった蒸気を熱の提供元としています。風呂内には二つの丸型の浴槽があり、50人以上の工員が同時に熱いお風呂に入ることができました。台湾鉄道の工員たちへの親切な福利サービスでした。すでに運用は停止されていますが、当時の賑やかさと浴槽の湯気が今でも立ち上っているようです。
台北鉄道文化フェスティバル
9月末に台北市政府と交通部台湾鉄道管理局が合同で開催する「台北鐵道文化節」(台湾鉄道文化フェスティバル)では、工場内の見学や鉄道に関する講座、技術者養成所の紹介や文物展、大型マルチメディア作品、木製模型展示、鉄道修理の過程の展示、懐かしの鉄道歌謡演奏会と自然生態ガイド、台北機廠のドキュメンタリーフィルム放送、また交響楽団による鉄道音楽会などが行われます。台北機廠の建築スペースや、機械文物とアート作品を通じて、豊かな歴史と文化に触れることができます。
秋の午後、台北機廠をぐるりと散歩してみませんか。賑やかな台北の街を背景に屋外車庫に列車が並んでいる様子はとても絵になり、心の中にある台北鉄道の感動的な思い出が思い起されることでしょう。
関/連/情/報
台北鉄道文化フェスティバル
会期:9月27日∼10月26日
会場:台北機廠(市民大道5段48号)
電話:(02)2336-2798内線218
www.arthappening.org/TRCF