文章・写真／張正傑（チェリスト）
もし基隆が私の「本妻」なら、台北は最も愛する「愛人」のような存在です
基隆で生まれ、ウィーンを経て台北で暮らし始めてもう26 年。昔は渋滞だらけで空気の汚れた台北も、今ではMRT が通り道路も整備され、非常に住みやすい街になりました。しかしそれ以上に、街中が活気に満ちているという点こそ台北の特色です。
元気いっぱいの朝：国父紀念館×光復市場
まずは国父紀念館から台北をご紹介します。
早朝の国父紀念館では無限の生命力が感じられます。大勢の台北っ子が太極拳、ダンス、運動に精を出す姿は、グリーグ（Edvard Hagerup Grieg）作曲「ペール・ギュント」（Peer Gynt）の「朝」（Morgenstemning）のように生き生きとしています。運動を終えた人々が向かうのは近くにある光復市場。歴史ある市場は街そのものと言えます。地元民の生活を肌に感じるには魅力のぎゅっと詰まった市場に行くのが一番です。
「同学菜攤」という野菜売り場の店主は、男性客に対し中国語でクラスメイトを意味する「トンシュエ（同学）」と呼びかけることで有名です。もちろん私もクラスの一人！外国のお客さんにはその国の言葉で挨拶し、インドネシア語やベトナム語もお手の物。さらに、特別にバジルなどを仕入れてきて品物におまけすることもあるそうです。ここで野菜を買えば、店主の働く喜びと野菜への愛着が伝わり、毎日前向きに楽しく過ごせます。また、光復市場の隣には行列のできる素包子（野菜まん）専門店があり、種類も豊富で一度に何パックも買う人が大勢います。
古きよき台北：市場×お寺
昔ながらの台北の雰囲気を守るのは、迪化街近くの永楽市場です。改修工事をしても店の人々のやさしさは昔のまま。何年経っても変わらない味といえば、豚肉や玉ねぎを湯葉で巻いて揚げた「鶏巻」やカジキスープのビーフン「旗魚米粉」も欠かせません。市場を歩けば、まさにヨハン・シュトラウス2 世（J.Strauss）の「ジプシー男爵」（Dear Zieunebaron）の序曲の雰囲気です！
お寺を参拝するのもその街を知る方法の一つです。お勧めしたいのは龍山寺と行天宮。線香の煙が立ち込める龍山寺は台湾の二級古跡に指定されています。お寺近くで薬草と漢方の独特のにおいがしたら、そこは青草巷です。一方、行天宮では、敬服すべきことに、昨年環境への配慮から線香の使用が禁止されました。この煙の立たない参拝をぜひ体験してください（「収驚」と呼ばれる線香を使ったお祓いは健在）。こうした多くの可能性があるのは台北ならではの特徴です。お寺の風景には、ムソルグスキーの「展覧会の絵」がよく似合います。
五感で味わう台北
台北はグルメの街。一味違うレストランを4 軒ご紹介します。復興北路のお手頃な「大和日本料理」は特上寿司が評判。潮州式飲茶が味わえるサンワンホテル（神旺大飯店）の「潮品集」では、エビのクレープ包み「蝦仁腸粉」が私の娘のお気に入りです。本場の浙江料理で常連客を魅了するのは「栄栄園」。ランディス台北（亜都麗緻大飯店）のフランス料理店は、質の高いサービスと特色あるメニューで、台北のレストランの多様性を体現しています。
台北で話題のレンタサイクル「YouBike」体験も外せません。特に仁愛路の並木道はサイクリングには最適です。また、夜の台北も見どころ満載。コンサートホール「国家音楽庁」は常時様々なイベントが催され、4,000 本のパイプからなる世界唯一の東洋風パイプオルガンも鎮座します。ここでバッハ（Johann Sebastian Bach）のパイプオルガン曲「トッカータとフーガニ短調」（Toccata and Fugue in D Minor）を聞けば、心揺さぶる音響効果を体感できます。
音楽を楽しんだ後は一日の疲れを癒しましょう。台北市内から30 分足らずで行ける北投や陽明山では、温泉で心と体をほぐし、日々の喧騒を洗い流すことができます。温泉につかりながらメンデルスゾーン（Mendelssohn）「真夏の夜の夢」（A Midsummer Night'sDream）の夜曲が聞けたらこれ以上の贅沢はありません。
台北、それは視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感と、何より大切な「心」で感じ、味わえる街なのです。
