あなたは夢を語らなくなってもうどれくらい経ちますか?
夢を語るのは簡単です。ちょっと口を動かすだけで大空を舞い、海の底に潜ることなど簡単にできます。しかし残酷な現実を前にすれば夢などたちどころに跡形もなく消え去ります。だから、かなわないことに様々な言い訳を探してしまうようになれば夢の火種はどんどん小さくなり、気づかないうちに燃え尽きてしまうものです。
2016 年1 月9 日午前5 時、56 歳の柯文哲台北市長は関渡宮に参拝し、水岸広場でウォーミングアップを済ませた後、自転車にまたがって台北を出発しました。そして19 時間52 分をかけ、300 キロメートル以上離れた高雄市まで見事走破したのです。なぜそんな酔狂なことをするのかと多くの人は訝りますが、柯市長は何も言わずに微笑むだけです。しかし実は内心、「今回の活動を通じて意志の力を示し、 台湾の人々に自信を取り戻してもらいたいからだ」と願っているのです。というのも彼は「海洋国家は危険や困難を恐れないものだが、成功と失敗を分けるのは意志の強さである」と考えているからです。
台北― 高雄サイクリング・プロジェクト始動
台北―高雄間を自転車で24 時間以内に走破するという今回のチャレンジは、国際自転車会議「ベロシティ・グローバル2016」および2017 年の台北ユニバーシアードの広報活動に関するある会議がきっかけとなりました。その中で柯市長は「自転車で台湾最北端の富貴角灯台から最南端の鵝鑾鼻灯台まで1 日で走り切りたい」と言い出しました。これを聞いた市の幹部は「それは無茶です」と言って強く止めましたが、市長はあきらめず、結局、助言を一部聞き入れ、台北~高雄間に区間を変更して実行に移すことに決まりました。
市の幹部たちはまず、運営体制の構築とルート設定に着手。一方で柯市長と警護担当者は、 忙しい公務の中、暇を見つけては市長室の隣室で筋力トレーニングを重ねたほか、 市交通局を通じて紹介を受けた台北市自由車協会のコーチから週に3 回、1 ~ 2 時間の専門的な訓練を受けました。コーチは市長の態度について「常に一番早く来て最後に帰るタイプの真面目な生徒」と評しています。さらに柯市長は毎日の出勤時、市役所11 階にある市長室まで階段を使うことを自らに課し、驚くべき意志の強さを見せました。
プロに対する敬意と信頼 困難な任務の成功導く
380 キロメートルもの距離を走破するということは、自転車に長時間乗り続けるということを意味するため、お尻の痛みとの戦いはつきもの。柯市長は途中でサイクリングパンツを着替えるほか、区間ごとのギアの切り替えや運転姿勢の変更、ペダルを踏む回数など、コーチの専門的な指示を忠実に実践しました。このことから市長が専門家に敬意を持ち、信頼することでこそ困難な任務を成功させられると考えていることがうかがえます。
今回のプロジェクトで柯市長や伴走者を最も感動させたのは、伴走を買って出た一般の人々の中でも、高雄ガス爆発事故(2014 年)の被害者が共に走りたいと志願して前日に台北まで自転車を持参し、全行程をともに走り切ったことでした。1 年のリハビリを続けているものの、まだ回復の途上にある彼にとっては筆舌尽くせぬ苦しみが伴う挑戦だったでしょう。しかし、「柯P(柯市長の愛称)にできるなら自分にもできる」と信じ、ついにやり遂げたのです。
挑戦を終えた柯市長は、夢を追い求める過程で壁にぶつかり、どうやっても先へ進めないという事態に直面した時は、世界中に無理だと言われても夢をあきらめなかった一人のおじさんのことを思い出してほしいと語りました。
そして「台湾に何が必要かと聞かれれば私は『希望』だと答えます。それは危険と困難に立ち向かう自信から生まれるものです」と訴えました。都市の未来は全市民の意志の力によって左右されます。
あとがき
あれから1 カ月、柯市長は228 記念日の連休に再び「 二都市間の一日自転車走破」 に挑戦しました。27 日の早朝に富貴角灯台(台湾最北端の灯台、新北市石門区)を出発し、風雨にも負けず約28 時間後に520 キロメートル先の鵝鑾鼻灯台(台湾最南端の灯台、屏東県恒春鎮)に到着、「地上最強のおじさん」の本領を発揮しました。