台北市の経済の動脈であった鉄道網は、魚の骨のように台北城(現在の台北駅の南側周辺)全域を覆っていました。かつて台北を繁栄へと導いた製糖、たばこ、酒造の三大産業は鉄道の沿線から始まり、広がっていきました。都市の発展に伴い今ではかつての勢いはありませんが、歩んできた百年の文化は現在へ伝わり、途絶えることなく引き継がれています。
糖線鉄道、糖業、服飾業の今と昔
かつて萬華では製糖産業が盛んでした。萬華駅を起点とし、沿線には百年の歴史をもつ金義合行といった建築や、当時、一番高い建築物であった萬華林宅などがあり、当時の活発だった商業や賑やかな街の風景を思い起こさせます。
清朝末から萬華艋舺大道の一帯は「個人製糖工場」が盛んになりました。ほとんどの工場では牛に石車をひかせ、サトウキビから汁をとり蔗糖を作っていました。日本統治時代にはそれらの個人製糖工場を買取り、台湾北部で最初の新式製糖工場「台北製糖所」が成立しました。のちに台湾糖業股份公司が引き継ぎ倉庫となりましたが、附近の化学加工業、服飾業は今でも盛んです。
1909年に建てられた「台北製糖所」は、現在修復され、緑地公園のある「糖廍文化園區」となり、市の指定文化財になっています。園内には三つの倉庫が完全な形で保存されていて、赤レンガを積み重ねて作られた倉庫には、アーチ門や台形柱、大きな梁などの建築様式が見られます。現在倉庫は、台湾の製糖業文化を紹介するスペースのほか、明華園戯劇団の衣装、舞台セット置き場、リハーサルの場として使われていて、近くには、トロッコ電車のホーム、先頭車、小さな区間レールが展示されています。特別にサトウキビが植えられた区画もあり、かつてトロッコにサトウキビが満載され、ここで精製された様子に思いを馳せることができます。
糖廍文化園區を出ると、台湾の縫製業発祥の地、大理街があります。近くに萬華駅があり交通の便がよかったことから、大理街には台湾で最初の縫製業卸市場ができ、最盛期には二千軒あまりものアパレル工場が軒を並べていました。鉄道が地下化された後、西部幹線の快速電車が萬華駅に停まらなくなり、アパレル卸業は徐々に松山駅附近の五分埔へ移っていきました。現在、大理街を再び服飾関連商圏として盛り上げる取り組みが行われており、往年の活気の再現に期待が寄せられています。
煙草王国の歴史を見守るたばこ線鉄道
日本統治時代にたばこ栽培を始めた台湾は、1960年代になると、産量、生産価格ともに「たばこ王国」へと発展しました。台北の紙巻たばこ製造工場であった松山菸廠(旧松山たばこ工場)は、太平洋戦争が始まると、台湾だけでなく、中国大陸の華中、華南、南洋諸島といった地域への供給もしなければならず、供給が追いつかなくなりました。
菸線鉄道(たばこ線鉄道)の参観スポットは旧松山たばこ工場の建物群から始まり、東は台北機廠(車両基地)まで続きます。忠孝東路4段553巷から入り、しばらく歩くとすぐに緑地と池の景色が見えてきます。池にかかった木の橋を渡るとエリア内の煙草工場につきます。バロック様式の建物と庭園があり、独特な異国の雰囲気があります。
旧松山たばこ工場の園内をゆっくり歩けば、当時のたばこ製造工場、ボイラー室が見えてきます。1号から5号までの古い倉庫の上部にはたばこ製品の輸送に使われた渡り廊下が残されています。倉庫の間を歩けば、製造、小分け、包装をする当時の賑やかな仕事の光景が見えてくるかのようです。さらに市民大道へ向かって進むと、菸線鉄道のホームや新たに設置された小さな区間のレールといった鉄道文化の遺跡が見られます。
わずか8ヘクタールが残されていた工場跡地は、松山文創園區(松山文化クリエイティブパーク)として整備され、芸術や文化の多元的な展覧スペースとなっています。また昨年完成した台北文創ビルには誠品書店が入り、多くの観光客をひきつけています。素朴さと現代感、静謐さと賑やかさのある松山文化クリエイティブパークは、台北の新世代に斬新な生活の記憶を刻むことでしょう。
醸造業の盛況を懐かしむ酒線鉄道
最後の路線は酒線鉄道で、このルートの主な参観スポットは華山1914文化創意產業園區(華山1914文化クリエイティブパーク)にあります。この一帯には、台北酒廠(旧台北酒造工場)、建國啤酒廠(建國ビール工場)、崋山駅などがあります。華山1914文化クリエイティブパークの前身である旧台北酒造工場は1914年に建てられました。米酒、燃料用アルコール、果実酒各種といった様々な酒製品を製造し、その種類の豊富さと多様性は個性的な特色となりました。
園内に入ると、多くの歴史的建築物が目に入ります。レンガとコンクリートを使用した三階建ての高塔区は、米酒の醸造工場でした。元々「貯酒庫」だった烏梅酒工場には、高さ50メートルものボイラーの煙突があり、当時の台湾の工業建築の技術の高さが分かります。同じエリアに建てられた工場は1930年代に多彩な建築工法を採用しました。現在では、このスペースで、ジャンルや時空を越えた芸術文化の展示が行われ、独特の美しさを作り出しています。
近くにある建國ビール工場の前身は日本統治時代に、当時、台湾で唯一のビール工場として建設された「高砂麥酒株式會社」で、現在は「台北啤酒工場」(台北ビール工場)と呼ばれています。今でも営業を続けている「生きた古跡」で、市の指定文化財であるだけでなく、工場内には醸造ビル、貯酒室、包装工場といった数多くの歴史的建築物が残されています。そのほか、開放式の伝統的な発酵槽、かつてのアルミ製の酒樽、世界中でわずか10基しか残っていないドイツの銅製糖化釜が4基あります。
台北城にある旧鉄道をめぐり、沿線の歴史的建築物を訪ねれば、百年余りの鉄道周辺の産業文化を身近に体験できるだけでなく、台北の都市の発展に理解を深めることができます。きっとこの都市の文化に驚かされることでしょう。
関/連/情/報
萬華駅
住所:康定路382号
電話:(02)2302-0481
糖廍文化園區
住所:大理街132-10号
電話:(02)2306-7975
松山文化クリエイティブパーク
住所:光復南路133号
電話:(02)2765-1388
華山1914文化クリエイティブパーク
住所:八徳路1段1号
電話:(02)2358-1914内線200、201
台北ビール工場
住所:八徳路2段85号
電話:(02)2771-9131