文／鐘文萍 写真／楊智仁
ここ数年、「文青」（文学青年）風がブームになり、ネットには45 ヶ条の「文青指南」まで登場しています。彼らは、スキニーパンツや縁メガネでアンニュイさを醸し出し、おしゃれグッズのフリーマーケットや誠品書店などに出没するとのこと。旅も文青風なら、観光スポットの喧騒で過ごすのではなく、閑静で個性的な場所で本や音楽、芸術などを楽しむのがその独特の美学です。
今回ご紹介する旅は、老舗やクリエイティブな店の多い太原路、長安西路、赤峰街をメインにしたのんびりしたもの。まずは台湾最後の活字屋である日星鋳字行を巡り、そして台北当代芸術館で写真展とインスタレーションを鑑賞。昼は缶子書館で本を片手に食事をし、午後は赤峰街を散策しましょう。日本人アーティストによるフラワーアレンジメントやセレクト生活雑貨を眺めながらコーヒーとシフォンケーキを味わうのも素敵。愛用の一眼レフやロモグラフィーでの旅の一コマ撮影もお忘れなく。一度、文学青年気分を味わってみては？
日帰り「文青」の旅
日星鋳字行で活字工芸を満喫 → 台北当代芸術館で芸術を堪能、缶子書館で本を片手にランチ → 日本人アーティストの生活の美学を体験、赤峰街で芸術散歩 → 柯芬園（コベント・ガーデン）で英国式アフタヌーンティー
09:00∼10:00
日星鋳字行
繁体字のぬくもりと美しさを彫り続ける
多くの方が幼い頃、活版印刷の発明の物語を聞いたことがあるでしょう。粘土を焼成して作った活字にインクを塗り書物を印刷した活版印刷は、写し書きに代わる方法でした。活字の材料は粘土、木、金属へと移り変わり、電算写植システムとオフセット印刷の登場まで千年余りを要しました。「ここ数年で台湾の活字屋はほぼ全滅です」と語るのは、活字屋「日星鋳字行」の社長張介冠さん。活版印刷業界は、元請けの活字屋と下請けの印刷工場からなり、活字屋は印刷工場の原稿を元に文選（活字拾い）、植字（活字の組み版）をし、印刷工場での印刷に回します。全盛期は台北市だけでも5,000 余りの印刷工場があり、一日に数万個の鉛活字が売れることもしばしばありましたが、後に年間販売数わずか2,000∼ 3,000 個まで落ち込み、2006 年には台湾全土で残ったのは日星鋳字行のみ、世界的に見ても漢字を扱う鉛活字屋では老舗中の老舗です。存続の危機にさらされる台湾の活字屋の将来を憂う日星鋳字行の張介冠さんは「店を残すことで、活版印刷の活字、文選、植字、印刷、装丁という伝統工芸と技術を後世の人に知ってもらえる機会になれば」と使命感を感じているそうです。
現在日星鋳字行が生産する中国語フォントは、楷書体、明朝体（宋体）、ゴシック体（黒体）の3 種、フォントサイズは初号（42pt）から6 号（7.875pt）まで、どのサイズも数千∼ 1 万個以上もの異なる鉛活字用の銅母型があり、創業時から使われています。7 台の活字鋳造機もアンティークさながらで工芸博物館にいるよう、噂を聞きつけた観光客でにぎわっています。黒光りする鉛活字で作る名刺やカードは台北ならではのお土産として人気です。ほのかな明かりに照らされる鉛活字と活字鋳造機のキーン、キーンというリズミカルな音が半世紀にわたる活字工芸の物語を引き継ぎます。
日星鋳字行
住所：太原路97巷13号
電話：(02)2556-4626
10:30∼13:30
台北当代芸術館で芸術の洗礼を
缶子書館で本を片手にアフタヌーンティー
長安西路と中山北路の交差点で目を引くレンガ作りに黒い屋根の建物は1921 年建設の建成小学校です。日本統治時代に日本人子弟の教育のために使われていましたが、戦後は台北市の庁舎となり、1996 年には市の歴史的建造物として指定されました。正面の庁舎は台北当代芸術館として改装され、左右両翼の部分は建成中学校となっています。美術館と学校の共存は世界初で、歴史的建造物に若い力がみなぎります。
2015 年初夏、ここで2 人のアーティストのエネルギッシュな個展が開催されます。游文富は、8 ｍの長さに裂いた竹を10 万本以上編み、総面積が1000㎡強にもなる壁で当代芸術館自体を囲みます。竹という素材の素朴で庶民的な美しさとパワーを表現しています。刺だらけの壁を表した作品『束刀辟土』（刺壁）は、1 万本以上の刺状に突き出た竹で疑心暗鬼に怯える心理を表現、『雨云身朵』（雲隠れ）は20 万本の羽毛と竹の枝で巨大な漏斗型の雲が人体を呑み込む様を表しており、雲から飛び出た2 本の足が心の自由と妥協を許さぬ意志の強さを象徴した視覚に強く訴える作品です。2 階では、写真家周慶輝が作品制作で使用した注射器や木馬、瓶といったモチーフを展示空間と対話させたインスタレーションを展示、もう一方では新竹動物園や寿山動物園での撮影の際に録音した動物たちの鳴き声や環境音を流し、各展示スペースと作品をリンクさせ、来場者の想像力を無限に広げます。
芸術をじっくり堪能したらお昼です。当代芸術館の側にある缶子書館で本に囲まれたランチはいかがでしょう。大きな窓を開ければ燦々と日差しが降り注ぎ、風も通り開放感が増します。シンプルな壁や、素朴な木製テーブルと竹製の椅子、味わい深い陶器がよく合い、中央にある長い展示スペースには本、茶器や陶芸作品が展示されています。ランチセットのスパイシーな三杯鶏や甘酸っぱいピリ辛タイ風魚料理も店の雰囲気にマッチし、食事時も文学的なムードが漂います。100 年近い歴史を誇る当代芸術館、そして缶子書館で芸術とグルメを味わい尽くしましょう！
台北当代芸術館
住所：長安西路39号
電話：(02)2552-3721
缶子書館
住所：長安西路39号
電話：(02)2550-8506
14:00∼16:00
日本人アーティストの生活美学を体験
赤峰街で芸術散歩
赤峰街にはかつて多くのくず鉄屋がある「打鉄街」でしたが、後に輸入金属や車・バイク部品が集まる「部品街」として知られるようになりました。近年はレトロな建物への人気から、ハンドメイドショップや飲食店などが増えており、花や食器、コーヒーなどを販売する傍でカンカンと鉄を打つ音が住民の日常に溶け込んでいます。
「小器」は、赤峰街におけるクリエイティブショップの先駆けと言えるでしょう。創業者は3 年前、バイクや車の修理工場が多いこの街で大胆にも日本アーティストの食器を主に取り扱う店を開きました。現在は、小器芸廊、小器食堂、梅酒屋、そして日本人オーナーの花屋「Nettle plants」、小林和人氏のセレクトショップ「日常設計研究室」、食器ブランドのスタジオエム（studio m’）が入った「赤峰28」をオープン、赤峰街を代表するショップと言えます。他にも松徳硝子、野田琺瑯、倉敷意匠などがあるブランドの食器に囲まれ、花を眺めながら冷たい梅酒を口に含めば夏の暑さも吹き飛びます。
赤峰街の魅力は表通りだけではありません。路地裏には壁面絵画が広がっています。赤峰街32-1 号脇の「藍色機器魚」（青い魚ロボット）は、車・バイク部品産業と鉄工の歴史を象徴する鉄製の魚ロボットを描いています。33巷8 号脇の「夢想・家」（「夢の家」と「夢見る人」の掛詞）は、歯車で生活を、鉄打ちで人生のステップを表現しています。3 巷3 弄6 号脇の「点亮夜裡的星星」（またたく夜の星）は、細く狭い路地裏がにわかに生命力にあふれる様子を描き、赤峰街35 巷と南京西路25巷の交差点脇の「大樹夢獸」（夢に見た樹の怪獣）は観光客の注目を多く集めています。赤峰街がモダンになるにつれ、狭い路地裏の昔ながらの佇まいが際立ち、人気を博しています。
小器生活道具
住所：赤峰街29号
電話：(02)2552-7039
赤峰28
住所：赤峰街28之3号
電話：(02)2555-6969
16:30∼18:00
柯芬園で伝統的英国式アフタヌーンティー
文学青年気分に浸れるカフェ「柯芬園」（コベント・ガーデン）、クラシックな小窓からは路地の緑が望め、まるで高雄で人気のカフェ「マーサ・キッチン」の台北版のよう。木の椅子、レンガでできた棚、鉄の垣根など心地よい音楽やイギリス雑貨が、童話のような世界を温かく演出します。カウンター奥の厨房からはバターの香りが漂い、道行く人を誘います。作りたてのチーズケーキ、アップルパイ、手作りクッキー、そして油とベーキングパウダー未使用のふわふわシフォンケーキでほっと一息ついてはいかがでしょう。
「文青」とは、美しさの中に温かみを感じる、主流にこだわらない新鮮なスタイルのことかもしれません。旅で言えば、美しきものを感じ、その土地の文化を慈しみ味わうことで心を潤すこと――あなたの「文青」度数はどのくらいですか？
柯芬園咖啡館
住所：南京西路18巷8号
電話：(02)2559-4217
