頤宮×陳偉強 陳泰栄
広東料理本来の味わいを守る
台北君品酒店(ホテル・パレ・デ・シン)の「Le Palais(ル・パレ)頤宮」を担う名料理人は香港とマカオから来た2人。中華料理前半を得意とするエグゼクティブ総料理長の陳偉強さんと、伝統的な広東料理を得意とするエグゼクティブ料理長の陳泰栄さんだ。広東料理の調理に使う器材や調味料はすべて香港から取り寄せ、新鮮な食材は台湾のものを使う。リーズナブルな価格と良質の食材で、広東料理の素晴らしい味わいを届けようという考えだ。頤宮叉焼皇(頤宮チャーシュー)は美食家から最も愛される一品で、脂ののった上質の肉と甘いタレに舌がとろける。
祥雲龍吟×稗田良平
台湾の食材へのチャレンジ
日本料理「祥雲龍吟」の料理長、稗田良平さん。3年前に東京の龍吟のオーナーシェフ、山本征治の期待を背負い台湾にやってきた。ほぼ100パーセント台湾の地元の食材を使い、これらを活かす大胆な発想でヌーベル・キュイジーヌを生み出している。美食家の心に鮮やかな印象を残す鴨肉は、宜蘭産ブランドの豪野鴨を使う。まずは低温の熟成室で5日間干し、さばいてからさらに10日間干してワラで燻製、血合いの残る鴨肉をやさしい味わいに仕上げている。
請客樓×林菊偉
中華料理に喜びと驚きを
シェラトングランド台北のレストラン「請客楼」は、淮揚(江蘇省淮安、揚州あたりを指す)および四川風味の麺料理と四川料理がメイン。蘇杭(蘇州と杭州)の高級料理も腕によりをかけた出来栄え。料理長の林菊偉さんは台湾の食材を中華料理に取り入れる。先に挙げた料理のほか、手の込んだメニューも用意。オープンキッチンとなっているため料理人の素晴らしい包丁さばきや調理の技、20年以上積み重ねた麺の芸術的な技を生き生きと目の前で見ることができる。看板料理の四神湯(漢方薬でモツを煮込んだスープ)はしっかり味がしみわたり、欧米の人々に最も人気。
謙安和×和知軍雄
武士の入魂
台北の安和路の路地にひっそりたたずむ日本料理の「謙安和」。2016年にオープンしたばかりだがミシュランの1つ星に輝いた。料理長の和知軍雄さんは、日本料理の真髄は水にあるという。だしを取るのも、米を洗うのも、米を炊くのも日本の水質に似たミネラルウォーターを使う。だしは一本釣りのカツオから作った鰹節にこだわり、自ら特製の削り器で削った削りたて。刺身は日本や韓国で水揚げされたものを厳選し、日によって違うものを用意する。
吉兆割烹寿司×許文杰
信じられない味わい
授賞式の日にはじめて1つ星獲得を知ったという「吉兆割烹寿司」の料理長、許文杰さん。授賞に際して「信じられない」と述べ、日本料理で星を獲得した数少ない台湾の料理人となった。料理の道を歩んで20年、冴える包丁さばきや食材選びにも細やかに気を遣い、新鮮な日本の天然食材にこだわる。刺身の握りが中心で、日本の星付き料理人を招いて台湾で限定食事会なども行い、期待を裏切らないおいしさ。ミシュランによると、許さんは職人としてその手を通じ日本の名店の味を味わってほしいと願う。
野村寿司×野村裕二
パーフェクトな食材
台湾で11年になる「野村寿司」の料理長、野村裕二さんは台北で「寿司の神様」と呼ばれる。野村さんは星を獲得したことについて、嬉しいけれどチャレンジでもあり、プレッシャーは大きいと語った。今後取材は受けないそう。野村さんの冴える包丁さばきと完璧を目指す食材は美食家たちを引き付ける。米はコシヒカリと北海道産ななつぼし、刺身は日本の築地から空輸で仕入れたもの。さらに茶を入れるのは富士山のミネラルウォーターと、そのこだわりようは常人では考えられないほど。ミシュランによれば、シャリ作りにも極めて厳しく、光り物やアナゴはじっくり味わう価値あり。
鮨隆×楊永隆
開店から星獲得までの期間は最短
「鮨隆」はオープンから半年にも満たない期間でのスピード獲得。今や予約したいと思っても半年待ちとなっている。料理長の楊永隆さんは受賞では目を真っ赤にした。この道26年の楊さんは、日本料理の仕込みと下ごしらえは非常に煩雑で、ただ魚をさばくだけではだめだと語る。毎日天気や湿度をみて魚の調理法を調整する楊さんは、いつも6時前に家を出て、帰るのは夜の12時だという。毎週日本から食材を仕入れ、握りのシャリには3種の合わせ酢を使い、刺身と完璧に調和する味わいに仕上げる。
侯布雄×Olivier Jean
フレンチの王道
「L’ATELIER de Joël Robuchon ジョエル・ロブション」は台北での1つ星獲得で、世界で35の星に輝いたことになる。台湾初のミシュラン星付きレストランとして、ジョエル・ロブションさんは愛弟子のOlivier Jeanさんに台北店を任せた。メニューは創意あふれる一方で伝統的なフランス料理の美味しさを忘れることなく台北の美食界をけん引する。おしゃれでモダンなカウンターにオープンキッチンを組み合わせ、美食に舌鼓を打ちながら料理人の洗練された調理の様子を楽しむことができる。
RAW×江振誠
星付き気まぐれシェフの味わい
オープンして3年余りの「RAW」。ここを立ち上げた江振誠さんは相変わらず個性的で、シンガポールで去年ミシュラン2つ星を奪回したのち台湾に戻り、台湾でもミシュラン1つ星を獲得したが授賞の席には現れたことがない。フライめんスナックのような駄菓子や三色蛋(鶏卵とピータン、アヒルの卵の塩漬けを使った茶わん蒸しのような料理)といった昔ながらの味わいから着想し、全く新しいものを取り入れるスタイルで、パスタを揚げたり、三色の魚卵を鶏卵に入れて蒸したり、あるいは蔥油餅(葱入りお焼き)にお好み焼きの要素を加えて調理したり。タコスのように仕上げた一品は香り高く飽きの来ないメニュー。
態芮×何順凱
厨房の冒険
どこでも手に入る缶詰の食材を使ってフランス料理に仕上げ、しかもミシュランの1つ星に輝く。これができるのは、「態芮Taïrroir」の料理長で、口下手だけど料理の得意な何順凱だけだろう。身近な食材と慣れ親しんだ中華風を合わせ、フランス式の手法で、新しく嬉しい驚きある味わいを作り上げている。大茂黒瓜(キュウリの醤油漬けの缶詰)をトリュフに見立て、スライスを鶏肉の皮と肉の間に詰め込んでフレンチ風に仕上げた「黒寡婦鶏」もそうだ。洋風の豚のカツレツに綿あめをあしらったものはなんと酢豚にそっくり。
天香楼×楊光宗
杭州料理本来の味わいを
1つ星に輝いた台北亜都麗緻飯店(ザ・ランディス台北)の天香楼。料理長の楊光宗さんは、星を獲得したのは非常に光栄だが、自分の中で特にミシュランを目標にすることはないと語る。純粋に最高の料理を作るというこだわりだけで、「賞というものは料理長にとって一つの栄誉にすぎない」という。天香楼は杭州料理が中心で、「二軽一清」を極めることだそう。つまり、油と調味料は軽め(二軽)に、あっさり(一清)が基本で、手をかけすぎたり調味をしすぎたりせず、食材本来の味を引き出すもの。
雅閣×謝文
昔ながらの広東料理に新たな味わい
マンダリン・オリエンタル台北のレストラン「雅閣」の新しい料理長、謝文さん。ナマコやアワビ、魚肚(魚の浮き袋を乾燥させたもの)といった中華の高級食材を、炙る、煮込む、焼く、炒めるなど手の込んだ技で調理するのが得意。広東料理の魂とも言える琥珀色のスープはアワビの味わいを閉じ込め野菜のうまみをとろ火で引き出してさらに味を整えるもので、濃淡やうま味にはそれぞれ秘伝があり、広東料理の料理人の秘密兵器である。謝さんは毎日午後4時にスープの味わいを自分で確かめ、仕事がひけると同僚たちとまた調理の技について話し合う。具がたっぷりで表面がカリッと黄金色に焼けて香ばしい焗醸鮮蟹蓋(カニグラタン)は特に人気。
金蓬莱遵古台菜×陳博璿
台湾料理のおいしさ発見
天母の「金蓬莱遵古台菜」は70年近く営業する本場の台湾料理の店。切り盛りする三代目の陳博璿さんは30歳で店を継いだ。食材選びにはこだわり、出来合いのものは使わない。看板料理の排骨酥(豚スペアリブの唐揚げ)は、温度の違う油で二度揚げることで、水分を保つと同時に外側がカラリと仕上がり、忘れられない味わい。珍味たっぷりのスープ、仏跳牆は十数種の食材を煮込んだもので、栗や漢方食材、豚スペアリブのから揚げなどすべて陳さん自ら選んでいる。鶏のスープはほどよい火加減でちょうどいい頃合いまで煮込まれ、後をひくおいしさ。
明福×阿明師
大盤振る舞いの仏跳牆
台湾料理の老舗、「明福台菜海産」。門構えは一般の民家のように質素で、中に入るとテーブルはわずか6卓。ここを仕切る重要人物は、厨房を引き受ける阿明師(阿明師匠)と客席を切り盛りする林麗珠さんの2人。最も有名なのは「一品仏跳牆」で、そのほか糯米鶏(鶏肉などの具ともち米をハスの葉で包んで蒸したもの)、清燉牛腩(牛フィレの澄んだスープ)、麻油双腰(鶏の腎臓をゴマ油で煮込んだもの)、焼烤九孔(焼きトコブシ)、烤香腸(焼きソーセージ)なども得意。支店を出したりテイクアウトや仕出しを手掛けたりすることもなく、ただただ質の高い台湾料理を作りたいという。また、料理を味わう人に心から料理を愛し楽しむことのできる美食家になって欲しいと願っている。
大三元×邱静恵
台湾料理と広東料理の素敵なマリアージュ
台湾風広東料理の老舗、「大三元」は、総統府から最も近いミシュランの星付きレストラン。いつも政界や財界の名士の姿が絶えない。董事長の邱静恵さんは、星に輝いたのは食材と手の込んだおいしさだろうと言う。邱さんは毎日自ら市場に出向いて食材を選ぶ。台湾料理の食材が融合した広東料理で、「海鮮焗木瓜(シーフードのパパイヤグラタン)」は、屏東産パパイヤを割りワタを取って、ホタテの貝柱、エビ、キノコなどの食材を詰め、チーズをたっぷりかけてオーブンで焼いたもの。食材のうまみとパパイヤの甘みがひき立て合い、後を引くおいしさ。
MUME×林泉
実験精神あふれる花の料理
これまで「アジア最高のレストラン50選」に二度選ばれたコンチネンタル・キュイジーヌの「MUME」。料理長の林泉さんは新しいコンチネンタル・キュイジーヌで名を馳せ、今では花を使った料理に夢中だ。サラダはとても面白いという林さんが作る看板料理の「MUMEサラダ」は季節の食材30数種を使う。大根は火を通したものと軽く漬けたものを使い、馬告(クベバ=ヒッチョウカの実)やトウチ(黒大豆を発酵させた調味料)で味を整え、さらにほんのり苦みと野草味のあるヘクソカズラや、花弁にウリ類に似た甘みのあるズッキーニを加え、視覚も味覚も喜ばせてくれる一品。
大腕×黄一洪
台北の焼肉界に君臨
たくさんの芸能人に愛される「大腕焼肉」。料理長の黄一洪さんは、ミシュランの星に必要な条件について「こだわりを持ち簡単に妥協しないこと」、「正直者でいること」という二言で表現する。こだわりというのは、スタッフやお客がたっぷり調味料を使う習慣を改めさせ、トウガラシ少々にネギ、塩だけで肉本来の味わいを引き立てることだという。ミシュランによれば、大腕の美味しさは熟成3週間以上の牛肉を最もよい状態に焼き上げ、好みに合わせて味を整えてくれることだという。
教父牛排×鄧有癸
まごころこもった味わい
教父牛排は台湾でオープンして4年。台湾のステーキハウスで唯一星を獲得した。台湾で高級ステーキと言えば知らぬもののいないのがこの「牛排教父(ステーキ界のドン)」鄧有癸さんだ。ホワイトオーク、クルミ、サクラの3種の薪でスモークし、台湾産の龍眼(リュウガン)の木の木炭で加熱する。薪の直火で焼くため薪の香りが厨房にただよう。調理の仕方はアメリカ風で、数段階に分けて焼くことで、外側はカリッと、内側はやわらかい触感に仕上がる。ココナツパイナップルタルトは南部のパイナップルを使い、レモングラス、カショウ、トウガラシのパウダーを振った一品。濃厚な熱帯の味わい。
Longtail×林明健
おしゃれな料理の風
林明健さんはこの道20年余り、さまざまな国の料理を手掛けた経験と豊富な知識で、独自の料理の哲学を持つ。20歳で夢を追うためきっぱり大学をやめた林さんは、香港の蘭桂坊で料理の道を歩み始める。レストラン&バーのLongtailは、美味しい創作料理と酒を提供し、親しみやすいサービスと温かい雰囲気に包まれ、台北のきらびやかなナイトライフを自在に彩り、集まったり食事をしたりするのにぴったり。林さんは地元の食材を活かすのが得意で、さまざまな国の調理法と創意を組み合わせる。林さんおすすめは鮮蝦漢堡(シュリンプバーガー)と鴨肝餃子(フォアグラ餃子)。カクテルもこの店ならでは。