台北で伝統文化に理解を深めるのに、古跡散策や関連展示を鑑賞するだけでなく、「その場に身を置く」体験をするなら、「朝市」は格好のスポットです。早朝5時や6時の台北は、空がわずかに明るくなり、市場の人影が慌ただしく動き出します。こうして新しい一日が幕を開けるのです。午前7時から8時頃には、買い物に訪れる客が徐々に増え、大きな売り声や話し声が絶えず飛び交い、台北の活気ある朝の風景を紡ぎ出します。もし、朝早く、にぎやかな場所を訪れたいなら、台北の朝市に足を運んでみてください。きっと人情味あふれる土地柄を感じることができるでしょう。
昔の生活がうかがえる大稻埕の朝市
昔の人は、朝、廟の神様に手を合わせてから、付近で野菜や果物を買ったり、食事をしたりしていました。時が経つにつれ、廟周辺には、朝市が形成されるようになりました。朝市の店は、売るものが異なれば、営業時間もバラバラです。朝6時から新鮮な野菜や果物が並ぶ八百屋もあれば、朝8時頃にならないと開店しない飲食店もあります。それでも午後4時や5時には、ほとんどの店が閉まってしまうので、営業時間を把握して、余裕を持って行くのがいいでしょう。
大稻埕に位置する慈聖宮前の涼州街には、台北で人気の朝市グルメ屋台があります。営業時間は大体朝9時半から午後3時頃まで。ほとんどが半世紀の歴史を誇る老舗です。米の一粒一粒の食感が感じられる鹹粥(塩粥)に紅燒肉(紅麹漬け豚の唐揚げ)や排骨湯(スペアリブスープ)合わせるのが、地元の定番。地元の人たちに習って、大きな樹の下であつあつの料理をほおばれば、数十年来の庶民生活を体験することができます。また、同じく大稻埕にある永樂市場へは午前11時以降に行くのがおすすめです。多種多様な布地を扱う問屋が並び、美食区の「阿發小吃店」「阿文基隆海產」は、リュック・ベッソン監督の映画『ルーシー』にも登場したスポット。映画ファンの巡礼地になっています。
MRT雙連駅2番出口横には、直線状に3、400メートル続く「雙連菜市場」があります。午前7時から8時頃にかけて店が並び始め、主婦たちが押し合いへし合いのにぎわいぶり。新鮮な野菜や果物、精肉、鮮魚のほか、挽面(糸除毛)、ネイルケアの店まで出ています。また、4階建ての「雙連市場」は公有の市場で、生花、骨董品、青果といった店だけでなく、2階には明るく斬新なホステリングインターナショナル「西悠飯店台北店」が入居し、古い市場を活性化させた成功例になっています。
天下一の屋台がある萬華区の朝市
萬華は台北市でもっとも早くに栄えた地域で、艋舺龍山寺、艋舺青山宮、艋舺清水巖祖師廟などの廟は悠久の歴史を有します。東三水街市場(新富市場)は早くも1921年につくられた市場で、現在の商店の主人は数代目です。「大豐魚丸店」は自家製つみれが有名な店で、魚丸(魚のつみれ)、貢丸(豚肉のつみれ)、花枝丸(イカのつみれ)などは、どれも新鮮でモチモチの食感です。「阿婆油飯」の蒸籠で蒸す油飯(中華おこわ)は、台北市主催のイベント、「天下第一攤」(天下一屋台)の庶民グルメ部門で第3位に選ばれました。また近くにある「丸合生魚片」は、基隆、屏東県東港鎮でその日に揚がった新鮮なネタを毎日卸市場で仕入れています。値段もリーズナブルで、大人気の店です。
康定路にある直興市場は、生鮮、刺身、果物の店が特に人気です。中でも「陽明山農場」は、多くの人に親しまれている八百屋で、季節ごとに異なる新鮮な野菜が並びます。また、「張媽媽雞肉鋪」も人気店で、鹽水雞(塩水鶏)と甘蔗雞(サトウキビで燻した鶏)は、鶏肉を毎晩煮た後、サトウキビの皮で燻しています。新鮮な鶏ならではの旨みと甘みが楽しめ、持ち帰るお客の姿も珍しくありません。
小型デパートのような新型朝市
近年、台北市の古い市場の多くが、政府による整備で新しく生まれ変わっています。動線や採光を考え、一からデザインされた市場は、まるで小さなデパートのようです。湖光市場は內湖のもっとも歴史ある市場で、生鮮食品、各種乾物、日用品などが揃います。ここの名物には、「鼎鼎燒餅」「謝記珍寶食品莊」などの庶民グルメがあります。このほか、羅斯福路にある南門市場は、台北市の歴史ある公有伝統市場のひとつです。一階にはバラエティー豊かな乾物の店が並び、二階は服飾店街、地下は生鮮市場になっています。ここでは、中国北方の中華菓子、乾物、調味料各種、お惣菜が有名です。時間が許すなら、「上海合興糕糰店」「億長御坊」「逸湘齋」などの名店で、何年たっても変わらぬ味わいに舌鼓を打つのもいいでしょう。
一日中楽しめる朝市兼夜市
朝市は通常、午後には店を閉めますが、中には地の利が良いため、夜まで営業し、夜市になっているところもあり、昼と夜で異なる印象を与えてくれます。世新大学の近くにある景美市場と八德路にある中崙市場は、朝7時から主婦が買い物に訪れ、夜7時になると学校帰りの学生や仕事を終えたサラリーマン、OLがお腹を満たす、食の楽園になります。どちらも50年以上の歴史がある市場で、もちろん有名なグルメも少なくありません。景美市場の「高記米粉湯」「上海生煎包」や中崙市場の「阿美麻豆碗粿」「中崙米粉湯」などは、朝早くから味覚を楽しませてくれる店です。どちらの市場も朝晩それぞれに魅力があるので、ぜひ異なる時間帯に訪れてみてください。
古代ギリシアの政治家であり詩人のソロンはこんな言葉を残しています。「旅の目的は『見ること』である。それは、その民族、文化、土地への理解と評価を意味する」。台北の朝市を散策し、その文化を見て、食を味わい、人情を感じてみませんか。さぁ、活力に満ちた一日を、朝市から始めましょう。
涼州街朝市
所在地:保安街49巷17号(慈聖宮前)
永樂市場
所在地:迪化街1段21号
雙連市場
所在地:民生西路198号
東三水街菜市場(新富市場)
所在地:三水街70号
直興市場
所在地:康定路172巷1号
湖光市場
所在地:成功路4段23巷
南門市場
所在地:羅斯福路1段8号
景美市場
所在地:景文街137号
中崙市場
所在地:八德路3段76号